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 サファリアムへ戻ると、動物達が復興していた。ヌーが草原を駆け抜け、サイが川端に寝そべっている。渡り鳥は嬉しがっている。のどかだ。

「あの洞窟の向こうは危ないよ…ライオンの巣なんだ」
 臆病そうなサイが俺に言う。滝の近くにあるあの洞窟か。この前来た時にはサファリアム同様に何もいなかったあの洞窟。
 だからと言って引き下がる訳にはいかないんだよな。何か手がかりがあるかもしれないし。この先何をやればいいのかも判らないし。ライオン達にも会ってみよう。何、言葉は通じるし…いざとなればこっちだってヤリとか魔法とかあるんだし。



 洞窟の中に入る。真っ暗だ。…ん?その向こうに何か光っている。そして、話し声が微かに。
「…人間か?」
「いやまさか。今ここにはいないはずだ」
「そんな事はどうでもいい…旨そうだ」
「こんな所に独りで来るとは…愚かな奴」

 …ほうそうかい。返り討ちにしてやるぜ!俺もヤリを構えた。その時。

「――止めろ…」
 鋭い声がした。
「その人間は我らの恩人。手を出す事は許さん。お通ししろ」
 その声を聴いたと思えば、闇が晴れる。そして、奥にいたライオン達は、俺に道を開けた。
 …通っていいって事か。奥へ進むと更に入り口がある。そこを抜ける。



 洞窟の中にはライオン達が巣を作っていた。洞窟の中とはいえ、草がちゃんと生い茂り、川も流れている。ライオン達も俺には友好的に話をしてくれるようになった。
「あちらにおられるネオ様が我々の、そして動物達の長だ」
 さっきの声の主か。植物のラー、鳥のキングバードと同様に、彼が動物達を統べているのか。ちょっと面会してみよう。ラーやキングバード達のように今回の復興に関して何かヒントをくれるかもしれない。



「我々を解放してくれて礼を言う」
 ネオは俺に対して頭を下げた。何だかくすぐったい。と、何だか隣の奥さんが浮かない顔をしている。どうしたの?

「実は…私達の息子であるライムが、千尋の谷に向かったきり戻ってこないんです」
 ネオに訊かれないように、彼女は口を開いた。
「ライムはネオの跡を継ぐための儀式として千尋の谷に向かったのです」
 どうやらライオンの長になるためには「千尋の谷」と言う所に行って戻ってこなければ認められないらしい。もしかしてライムが向かった時に…地表は「無」になったのだろうか。

「千尋の谷は危険な場所です。しかしライムはまだ子供です。私は心配なのです。…ネオは掟だからと言って迎えも寄越しませんが、どうかあなたに見てきて頂けないでしょうか」
 ライオンの子守りか。でも特に差し迫った用事がある訳でもないし…いいよ。手伝う訳じゃないし、見物位なら。

 ライオン達に改めてライムの評判を訊いてみる。どうもまだまだ心許ないガキらしい。
 …そんな奴を化物一杯の千尋の谷に突き落として大丈夫なのか?いや、千尋の谷から生還しない限り「長」にはなれないんだろうけど。自分の子が生還しなくても仕方ないって事だろうか。
 他人事ながら、何だか心配になってきた。急いで千尋の谷に向かおう。



 千尋の谷を見下ろす地点。俺に忠告をくれるサボテン。でも行かなきゃならねーんだよな。
 俺は谷に下がっている蔓にぶら下がって降りていく………って、途中で蔓切れてるんすけど。
 良く考えたら、ライオンが蔓にぶら下がれる訳もなし。ライムは飛び降りたんだよな。…俺に出来ない訳がない!でいやあ!

(………自由落下中………)

 …ふう。随分下まで降りたもんだ。さて、ライムは何処に居るのかな。



 谷を駆け上る訳だから、マップはグレートクリフ系。敵も似ている。今の俺には結構な雑魚だな雑魚。でもライムにしてみたら…どうだろう。
 …って、視界の隅で敵に取り囲まれている動物ハケーン!お前らちょっとどけ(どかべきばこ)!

「助けてくれてありがとう。でもお兄ちゃん…誰?」
 そこに居たのはチビライオン。お前がライムかよ!すんげえ弱そうじゃないか!
「お前のお母さんに様子を見てきてくれって頼まれたんだよ」
「そうなんだー。魔物が多くて大変だけど、頑張るね!」
 …お前、結構前向きだな。怖くねえの?
「だってこの谷から戻らないと、僕は長になれないんだもの」
 そうか。逃げ出したいとか思わないだけ、凄い奴だな。ちょっと見直した。でも…貧弱だし。不安だ。俺もちょっと付き合おう…。



 てゆーか、てくてく呑気に歩いては敵の攻撃に当たったりしてやられてくれるなお前。お前がやられると天の声の「ライムがやられてしまったのでやり直しです…」との宣告で、マップの最初からやり直しになるんだよ。…うがあ、俺がお前より先にマップから出てもやり直しかよー!
 良し、先回りして泥人形をどつきまくって敵の目をひきつけてと……って何でお前こっちに来るんだ。わざわざ攻撃当たりに来るなーーー!

「アーク兄ちゃん、何だか楽しいね!こんな試練なら何度でも受けるんだけどなあ」
 …こっちばっかり疲れているような気がするぞ。お前…「前向き」なんじゃなくて全然何も考えてないだけだろ。

 途中で断崖絶壁登り競争をやらされたり(俺は鉤爪使って登るけどこいつどうするのかと思ったら、岩の間を跳んで登っていった。ライムって結構身が軽いんだな)、落ちる岩を歩調を合わせて渡っていったりとなかなか大変だった。今まで独りで旅してきたけど、こいついると凄く神経使う…。

「アーク兄ちゃんって強いんだね!」
 鳥を一撃で倒したりしているとライムにこんな事を言われた。悪い気はしないが…お前だってこれから動物達の長になるんだぜ?お前だって「強く」ならないと、どうしようもないんじゃないのか?

 高台に出る。ライムはジャンプして向こう側に渡る。俺も着いていこうとしたら…ありゃ、飛距離が足りねえ。落ちてしまった。でも同じ画面には違いない。ライムは向こうの画面に見切れてしまったし、あっちで合流できるだろ。そう思って画面をスクロールさせたら。



「…こんな所まで来てくれるとはね」
 ライムが居る高台は切れ、更に向こう側にある高台には泥人形らしき姿がある。でも喋っているから今までの雑魚とは違うんだろう。
 そして、ボス戦のBGMが掛かる。相手が弾を撃ってくる。地上の俺に向かって。
 ライムは無視かーい!…正直、あっち撃たれたら今困るけど。防御の手段がないから。

 弾はガードで防げる。しかし…相手は高台だ。こっちがジャンプしても攻撃は届かない。
 魔法か?「プライムブルーの力が押さえ込まれて魔法が使えない!」…どないせいっちゅーんじゃ!グレートクリフのボスみたいにこっちに降りてくる気配もないし。

 周りに何か手がかりはないか?見回してみる。高台の泥人形。地上の俺。もうひとつの高台に居るライム。そして…地上にある岩。
 …岩?そうか、これだ!俺は岩を引っ掴んで、ジャンプして泥人形目掛けて投げた。
 当たった!

 「…兄ちゃん!これ使って!」
 ライムも勘付いたのか、俺が投げる度に岩を拾って来て、地上に落としてくれる。良し、お前もなかなか機転が効くな。後はこれをばかすかあいつに当てるだけだ!



「…わ、悪かった」
 暫く岩をぶつけまくった挙句、泥人形が根を上げた。
「俺が悪かった。お詫びにいいものをあげるから、こっちに来てくれ…」
 反省するならそれでいいさ。俺は奴の方に一歩踏み出した。と。

 地面に穴が開き、俺は真っ逆様に転落した。

「……アーク兄ちゃーーーーん!」
 ライムの声が遠くに聞こえる。


 
 俺は崖の出っ張りに引っ掛かっていた。かろうじて助かったようだ。しかしかなり下まで落とされてしまった。ライム達の様子は判らない。
 …ライム!?あいつを独りにしてしまった!

「相手を信用するなんて馬鹿なのさ」
 上から泥人形の馬鹿にする声が微かに聞こえてくる。あいつ、俺が死んだモノと思っているようだ。それはライムも同じだろうか。
「お前も楽になりたいだろう?」
 泥人形は次にライムを攻撃するつもりらしい。止めろ、この卑怯者。くそ、まだ魔法は使えないのか。崖も登れないか。

「…アーク兄ちゃんの仇ーーー!」
 沈黙の後、不意にライムの叫び声がした。そして、再びボス戦BGM。



 びしばしと殴るような音が上から聞こえてくる。結構派手な音。…おい、上で何が起こってるんだ。見えない分、凄く不安だ。

「…くっ、こいつ、子供だと油断していたが…」
 泥人形の焦ったような声。どう言う事だ。もしかして、ライムが押しているのか?
 俺が死んだと思って、ライムは火事場の馬鹿力でも出しているのだろうか。それはそれでいいんだけど…。

 というかアーク。いくら何も出来ないウェイト状態だからと言って、ヤリを杖代わりにしたり足でリズム取ったりこっちに手を振ったりするのは止めて貰えんだろうか。緊迫感が一気に砕け散るんだよ。



 そうこうしているうちに。
「…ま、待ってくれ…」
 また泥人形が泣きを入れたらしい。止まるBGM。
「俺が悪かった…今度こそ、何もしないから…許してくれ…」

 随分とムシの言い話だなおい。でも俺らをこれ以上邪魔しないんならいいけどさ。ライムだってそうだろう。
 
  …そう、俺は、思っていた。



 ライムは沈黙したままだった。

 ざしゅっ。

 再び、沈黙。


 
 ………ななななななな何だよ今の音は。演出は。
 まさか…やっちまったのか!?ええおい……ライム…やっちまったのかよ!魔物とはいえ、命乞いしていた奴を!

 ぱたぱたと足音が聞こえてくる。
「――アーク兄ちゃん!生きてたんだね!」
 嬉しそうなライムが、岩間をジャンプして降りてきていた。
「僕やったよ!アーク兄ちゃんみたいに強くなれたよ!」
 …ああ。そうみたいだね。俺は頷くのが精一杯だった。

 と、上から何かきらきらしたものが落ちてきた。
「あれ?これ何かなあ?」
 さっきの泥人形が持ってた奴か?
「そうみたいだね。…僕が持っててもいい?これを見てたら何だか勇気が湧いてきそうだよ」
 俺は特に…いいよ。うん。これはお前が持ってた方がいい。お前が…倒した相手なんだから。



「僕、渡り鳥さん呼んで来る!」
 そう言う取り決めなのか。じゃあ宜しく。俺はライムの背中を見送った。

 …君は、もう既に「長」に相応しい。
 冷静に、冷酷に、全てを判断できる動物達の長に。その幼い体の中に全てを持ち合わせていたんだ。君はもう「弱く」なんかない。俺何かよりも余程「強い」。
 君は俺みたいに情に流される事もないだろう。
 素晴らしい長になって動物達を統べる事を祈るよ。


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